2019のベスト本
1、三浦綾子『氷点』・『続・氷点』
三浦綾子は『塩狩り峠』を昔読んで感情ゆさぶられまくって泣きじゃくりましたので、今回も期待していたら大当たり。というか、こんな有名な作品なぜ今まで読まずにいたのかという感じですが…。
舞台は北海道・旭川。医者である辻口啓造は、自分が留守中に佐石という男によって3歳の娘・ルリ子を殺害されてしまう。また、ちょうどその娘が殺されたであろう時間に、妻の夏枝は自分の同僚である村井と密会していたことも知ってしまう。夫妻は悲嘆にくれるが、夏枝はそのうちに、「ルリ子の代わりに女の子が欲しい」とねだりはじめる。妻に対しての怒りから啓造は、夏枝に知らせずに自分の娘を殺した殺人犯である佐石の娘とされる幼い女の子を引き取る。女の子は陽子と名付けられ、夏枝の愛情を受けて明るく素直に育っていくのですが……。
継母による継子いじめや、義理の兄妹間の恋愛などの大衆的な要素もあり、ドラマチックで物語としても非常に面白いですが、『氷点』の主題がキリスト教の「原罪」、続編の方は「ゆるし」という重々しさも含まれています。辻口夫妻をはじめ、なぜこうも愚かで馬鹿なことを繰り返していくのだろうと思いながら読み進めるのですが、果たして自分自身にベクトルを向けたときに登場人物たちに対してどこまでそんな批判をできるのか、怪しいものです。
人間の存在そのものが、お互い思いがけないほど深く関わり合い、傷つけ合っていることに、今さらのように啓造はおそれを感じた。
『氷点』
人間同士のゆるしには、おそらく完全を求めることができないであろう。許したつもりが、いつまた憎しみが頭をもたげてくるかわからない。『続・氷点』
人を傷つけ、自分が傷つけられたことに怒り狂い、一方で傷つけたことには対してすぐに許しを求めて……。ああ、人間って本当に愚か。でもそんな愚かな人間である私だからこそ、この小説を読んで登場人物たちのように無性に何かに許されたい気持ちになりました。
この話にハマりすぎて、舞台にもなった三浦綾子記念館に行くためだけに、北海道の旭川に飛んだのもいい思い出です。
雑木林でいろいろ考えているうちに、気づけば1時間もいました…
『氷点』を一度でも読んだことがある人は行く価値ありです。
正確に言うと、『星を継ぐもの』は2014年に読んで、『ガニメデ…』は去年読みました。『巨人たちの星』は今年読み終わったのでここに載せました。(まだ続きに『
内なる宇宙』、『Mission to Minerva』(未訳)があるんですね…読まねば…!)いやぁ、SFは面白い。
有名な古典SFなので、内容を説明するまでもないかもしれませんが、月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体(『チャーリー』と名付けられる)を発見するところから物語はスタートします。その正体を探るために、物質を透過撮影できる装置の開発者であるハント博士にも調査への参加が要請されます。その調査によって、5万年前にチャーリーが生きていたことが判明するんです。しかし、こんな高度な技術が地球に存在した痕跡は無い。それに対して、もしかして、チャーリーは異星人なのではないか、という憶測がとぶ。しかし
生物学者のダンチェッカー博士は「彼」が間違いなくヒトであると断言し出身地は地球であると主張する。果たして現生人類とのつながりがあるのか。月がそんな状態で盛り上がっている中、
木星の衛星ガニメデでは、さらに大きな発見、なんと宇宙船の残骸が発見される……!
宇宙の謎を解きつつ、我々人類がどこからきて、どこにいくのかを考えてしまいます。
内容難しくてもぐいぐい引き込まれる作品です。
3、新井 紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』『AIに負けない子どもを育てる』
「読解力」はどうしたら伸びるのかを考えている時に出会った書。
著者は
国立情報学研究所教授で数学者で、東大合格を目指すAI「東ロボくん」の育ての親である。
AI技術が発展して、いわゆるシンギュラリティ(AIの進化が人間のそれを上回る)が到来し、人類は滅亡の道へ向かうなんていうことが、ささやかれている昨今ですが、筆者曰く、それはないらしい。なぜなら、AIはコンピュータであり、どんなに性能がよくなっても、コンピュータは四則計算をする機械でしかないからだ。だから、東ロボくんの偏差値も一定数までしか上がらない。「国語」でつまる。AIは意味を理解しないから、読解ができないのである。ただし、「それなら、人間は意味を理解するからAIに仕事を奪われないから安泰だ!」と手放しで喜べる話ではない。なぜなら、その四則計算しかできないはずであろう、AIより、人間の読解力が劣っているからだ。それも、行間を読めないとかそういうことではなく、書いてある文章をそのままの意味で理解できる人がそもそも少ないのだ。全国読解力調査によると、中高生の3人に1人が教科書の文章を正しく理解できないそうだ(実感としては実際はもっと多いように思う)。つまり、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』は、シンギュラリティとか関係なく、大丈夫か、人間社会…という感じの本です。
続きの『AIに負けない子どもを育てる』には、読解力のテストがついていて、「最近の子どもたちは読解力がない」なんて高みの見物はできなくなります。自分の読解力もAIと大差なく、大したもんじゃなかったという悲しい結果。そして悲しいことに、「これをしておけば読解力が上がる」という相関関係があるものは見つかっていないのです。どうしたらいいんだー!作者はそれでも読解力をあげるためにこんなことができるんじゃないかと提言します。もう一度、時間があるときにゆっくり読み直したいです。
4、中島輝『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』
人生におけるすべてのことは自己肯定感の高低で決まるんじゃないかと思ってます。
でもなかなか自己肯定感ってあがらない。あげようと躍起になるとさらに自己肯定感をあげられない自分に自信がなくなって、結果的に自己肯定感が下がるという謎のループに陥ることもあります。
この本は、そもそも「自己肯定感」とはどのようなものなのかという理屈から、自己肯定感をあげるための具体的なテクニック(瞬発型のものから持続型のものまで)まで、すべてを網羅しています。自己肯定感を上げたいけど、煮詰まっている、そんな人に読んでほしい一冊です。
5、小川かりん『夜行バスで出かけましょう 』
コミックエッセイです。私が最後に夜行バスに乗ったのは、10年ほど前。そのときは、大阪~東京間だったけれど、朝バスを降りたときにはお尻が痛くて、痛くて…二度と夜行バスなんて乗るか!と思ってたんですが、最近は昔よりも快適になっているバスも多いみたいですね。
夜中のパーキングエリアとかめっちゃ楽しそう!早朝から観光できるし、めちゃくちゃ楽しそうですね。
疲れている時に、この本を読んで旅に出る妄想をしながら眠りにつくということをこの1年何度もしました。
実際、夜行バスで旅に出てみたいなと思います。